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【多元觀點】「東亞視域中的儒佛論諍與會通國際學術研討會」に参加して

【多元觀點】

 

「東亞視域中的儒佛論諍與會通國際學術研討會」に参加して

 

 

賴住光子

 

東京大学大学院人文社会系研究科教授

 

 

 

 

 

  臺灣大學人文社會高等研究院院長の黄俊傑先生が企画され、2015年4月27、28日に開催された、「東亞視域中的儒佛論諍與會通國際學術研討會」に参加させていただきました。二日間に渡るシンポジウムでのそれぞれの先生方のご発表や議論を通じて、私自身学術的に多くを学ばせて頂くと同時に、黄俊傑先生を筆頭に、この会議に関わられた諸先生方やスタッフの皆様の熱意と誠実さに、大きな感銘を受けた二日間でした。

  さて、今回のシンポジウムのテーマは、東アジアにおける儒教と仏教との関係についてでした。周知のように儒教と仏教とは、中国をはじめ、その周辺諸国においても、互いに影響を与え合いつつ、ある時は対立し、またある時は調和するという複雑な歴史的関係を結んできました。シンポジウムでは、このような関係を思想的にどのように意味付け捉えていくのかということが中心的なテーマとして検討されました。さらに、異質な思想・文化の共生、外来文化の土着といったきわめて今日的な問題に対して、どのような示唆が、ここから汲み取れるのかということも問題とされました。

  シンポジウムでは、まず、黄俊傑先生が基調報告をなさいました。中国、朝鮮、日本のそれぞれにおいて儒仏はどのような関係を持ったのかという点に関して、孝と出家、仏法と王法、霊魂の滅不滅、輪廻の有無などの諸問題について明晰で視野の広い御報告をうかがい、本シンポジウムの意義について改めて認識させていただきました。その後、両日あわせて8本の提題と質疑が行われました。

  各提題の中では、陽明学者である周汝登や朱子、仏教者である雲棲袾宏、『物理小識』や『通雅』を著わし日本でもよく読まれた方以智、さらには朝鮮朱子学、ヴェトナム儒学者である黎貴惇、日本の五山僧や朱子学者である藤原惺窩や山崎闇斎、また禅僧隠溪智脱などについてそれぞれにたいへんに啓発的なご発表を伺いました。特に、私が関心を持っている和辻哲郎につきまして林永強先生が、和辻の倫理学体系における儒教と仏教の影響を指摘し分析されたのが勉強になりました。和辻研究においては、これまで、ヘーゲル、カント、ハイデガー、ニーチェ等の西洋哲学との影響関係が重視されてきましたが、個ではなく関係(間柄)からはじまる倫理学には当然、東洋思想との深い繋がりがあり、その点を明晰に説明されたご発表はとても説得的でした。

  シンポジウムのあとで、見学旅行をアレンジしていただき、張崑將先生、蔡振豐先生、艾靜文先生、王明兵先生、鍋島亞朱華先生とともに、法鼓山や朱銘美術館を見学させていただき、臺灣の現代の宗教や芸術の熱いエネルギーにじかに触れることができ感動いたしました。

  最後に私自身の発表の内容について、その後考えたことなども併せて簡単に紹介させていただきたいと思います。

  今回のシンポジウムで私は、日本における儒教と仏教と関係について、特に古代中世を中心に発表させていただきました。日本は、中国大陸から海で隔てられつつ海で結びついており、儒教や仏教をはじめ多くの文明を中国から学んで中華文明圏の周縁でその一角を担いつつも、一つの「小天下」として独立性を保ってきました。特に古代中世においては、儒教も仏教もともに日本文化の不可欠の基盤と位置づけられ、中国大陸におけるような儒仏の対立は顕著ではありませんでした。

  中国においては土着の思想である儒教が、外来の仏教は中国社会や伝統思想には馴染まないと批判し、それに対して仏教側が、ある時は自らの思想の優位性を説いて反論し、またある時は互いの目指すところは一致していると融和を説きました。ここには土着対外来という対立の構図が見られますが、日本の場合は、圧倒的に優越した外来文明として儒教も仏教も受容していますので、両者を対立させる必然性はなかったと言えるでしょう。

  古代中世の日本において、儒教は統治の道徳的基礎として尊重され、他方、仏教の方は、日本人の精神世界において重要な役割を果しつつ、さらに鎮護国家儀礼を通じて国家の統合を形成し、葬送儀礼によって家族・親族の紐帯を維持するというように、広く社会的にも重要な役割を果しており、そこには儒教と仏教との矛盾葛藤は見られませんでした。しかし、五山僧が宋学を積極的に受容することによって、当時中国で盛んに唱えられた朱子学の仏教批判や陽明学や仏教の三教一致の考え方がクローズアップされ日本の思想界に広まっていきました。これを受けて、日本の近世思想では、儒仏の対立と融合ということが特に大きなテーマになりました。それは、儒教が仏教に対立しつつ社会的プレゼンスを高めていく過程と重なっていました。

  さて、近世の儒仏関係を考える際に、特に注目されるのが、日本土着のカミ信仰に基づいて発展した神道との関係で、儒仏神の三教一致が日本独自の説として主張されるとともに、儒教と神道との融合、神道側からの、外来思想(儒仏)に対する日本の純粋性を守るための排斥などが目立ってきました。もちろん、古代中世以来、神仏習合が一般的に行われてきましたが、日本近世にはさらにそこに儒教が絡んで、儒教と仏教と神道の複雑な関係が展開していったのです。これらの近世における三教の関係はたいへんに興味深い思想研究上のテーマではありますが、これまでは、儒教、儒教、国学の研究者が、それぞれ自分の研究対象を中心として議論を組み立てており、これら三教の絡み合いを俯瞰する研究はあまり行われてこなかったように思います。ミクロな研究ももちろん大切ですが、今後このような広い視野からの俯瞰的研究も必要になってくると、今回、痛感させられました。

  今回の「東亞視域中的儒佛論諍與會通國際學術研討會」は私にとって、研究の上でも大きな示唆を与えられましたし、中華文明における学問伝統の奥深さと蓄積を肌で感じ大きな刺激を受けました。また台湾社会の活発なエネルギーに直に触れることによって、日本社会の現状を見直すとてもよいきっかけになりました。

  最後に、このような充実したシンポジウムにご招待くださいました黄俊傑先生、見学旅行をはじめ何かとサポートしてくださいました張崑將先生、蔡振豐先生、語学などさまざまにサポートしてくださいました林永強先生、親しく語り合ってくださいました鍋島亞朱華先生、そして、今回のシンポジウムに参加されたすべての先生方と、会の運営をサポートしてくださったスタッフの皆様に心からの感謝をささげます。

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